しばらく返事に戸惑っていたら
切々と訴えかけるような詩のようなものが送られてきた。
一部だけ勝手に抜粋してごめんなさい…
「咲く花が綺麗と言え、十日を生きるか、
散る花が悲しいと言え、俺の胸に比べられるか。
来るもの欲求無しに来、去るもの未練無しに去り、
虚妄で、意味の無いこの世・・・・・・
でも、今日も息をしているのは、
種を入れたバケッツを背負って
山だ、荒野だ、種を蒔かなければならない運命なのか?
何所から聞こえてくる静かな風鈴音が、
眠れない想念を、静かに呼び戻す夜。
どうせ、人生一場春夢なのに・・・・・・
でも、種を蒔く為には今日も起きないと。」
そんなことが書かれていた。
そして後日、お詫びのメールが来た。
「頑張ってはいるつもりでしたが、ふっと僕の隣に誰もいないことに気づきま
した。(娘がいるにも関わらず)」と。
そして、実は、今まで黙っていたが、自分は本当は日本人でも在日でもない韓国人だ、と
最後に書かれていた。
『僕の隣に誰もいないことに気づきました』
この言葉は、そのときの自分の空虚な心に突き刺さりひどく胸を打たれた。
前の詩の言葉と、合わせた彼の想いがとても切々と伝わってきた気がした。
彼は
ずっと
寂しかった
そしてそれは、
ずっと言い出せなかったこと、
自分が韓国人であること
国境を越えて想いを通じさせようとするとき、
きっと彼がぶち当たる最初の壁であるらしいこと
それらのことが想像できた。
少なくともその事実に私はショックを受けていたことは確かだった。
韓国の人だから、とか、外国の人だから、とか、
自分の中でこれまで分け隔てしてきたつもりはまったくなかったし
そんなことにこだわっていないつもりだった。
なのに
正直、私はそのときとてもあせっていた。
彼は、ただのメールフレンドとして付き合うことを望んでいたわけではないことは知っていたから。
家族が欲しいことは知っていたから。
しかも彼は日本に住んでいるわけではないらしく。
このまま彼と親交を深めるわけにはいかない。。
メールではなく、実際に会っていて、好意を寄せている状況だったらもっと違ったかもしれない。
だけど、今はメールのみの関係で、簡単に引き返せる。
そう思ってしまった・・・
なんだかいろいろな複雑な感情が渦巻いていた。
だけど、それを彼に伝えることができない。
なんて言ったらいいのか分からない。
そうやってぐずぐずしていた挙句、私はありきたりな言葉だけで返信した。
今のところ私には何もできそうにありませんが
愚痴くらいは気軽にいつでもメールしてくださいね。
そんな馬鹿みたいな言葉。
今読み返しても吐き気がする。
親切ぶって書いたその返信。
こういうのを偽善と言うんだろう。
彼は愚痴が言いたいわけでもない。
メールフレンドが欲しいわけでもない。
そんなこと、これまでメール交換してきて、百も承知だったのは自分じゃないか。
私は、国籍が違うとか海の向こうにいるということを知って
ショックに思ったことを詫びるべきだったのじゃないか。
その先のことを考えることができないことをきちんと話すべきだったのじゃないのか。
彼は苦しい心の内を伝えてきてくれたのに。
自分の取り繕った親切心がとても愚かに思えて
そのとき、そんな返信をしたことをとても後悔した。
変な中途半端な言葉を送るよりもいっそ
無言を通したほうがまだよかった。
あれだけ苦しい心をさらけ出してくれた人にとても失礼なことをしてしまった。
それきり、彼からのメールは途絶えたが、
私の心の片隅にずっと苦い思い出として残っている。
だからもうその場限りの無責任なやさしさはやめようと思った。
偽善もやめたい。
いっそのこともっと冷たい人間でいられたらいいと思う。
私みたいに中途半端な人間は。
-----------------------------------------------------
国籍が違う方への偏見は一切ありません。
そういう主旨の雑文ではないこと、ご理解頂けましたら幸いです。