見知らぬ外国人が目の前に!しかも髭だらけの!
それだけでドキドキするやら、怖いやら…
外国人がらみの嫌なニュースが一瞬にして頭をよぎる。物騒な世の中だ。
「ここは、○丁目22-16番ですか?」
「い、いえ、えっと、えっと、、22じゃなくて21だったと思います。」
だって、そこまで醤油を買いに行くだけのつもりで着の身着のまま飛び出してきた。
身も心もとても無防備だったから、予期せぬ展開に頭が混乱して一瞬自分家の住所も忘れた。
「そうですか。22はどこですか?」
見ると男は英文字で住所が書かれた紙切れを大事そうに持っていた。
見せてもらうと聞いたことのあるマンション名が記してあったので、
部屋に街の地図を持っていることを思い出して
「地図があるからちょっと見てきます」
と言って部屋にわざわざ戻ってそのマンションの所在を確かめに行った。
男はひどく恐縮していたが、
自分でもそんな見知らぬ髭面の外国人のためにそこまでしてやる必要あるのか
大丈夫なのか、突然殺されたりしないのか、
そんなことを思ってみたけれども、なぜか親切な行動ぶりの自分がとても滑稽だった。
男はきちんとした身なりだったし、表情がとても困ったような心細いような顔をしていたから。
悪い人じゃない、そんな自分の直感を信じることにした。
地図を確認するとすぐ近くのマンションだった。
醤油を買いに行くついでだったので、
その男をマンションまで連れて行ってあげた。
真っ暗な道を見知らぬ外国人と歩くのはほんとはドキドキしていたが
男は歩きながら、その私の不安を打ち消すように話し始めた。
エジプトからはるばるその住所の女性に会いに来た事、
日本語が上手なのは、エジプトで観光ガイドをしているからということ、
もう一時間もこの辺りでうろうろしていたこと。
丁寧な日本語で話すその男は、誠実そうな人だった。
マンションを指差し、私はスーパーへ向かうために、すぐに男と別れた。
何事も無くよかった、とほっとしながらも、
ずっとその外国人が気になって仕方なかった。
あんな紙切れを持ってわざわざ探し回るほどに会いに来たようだが
無事に会えたのだろうか。
文通相手か何かだろうか?
それとも観光ガイドをしていて知り合ったのだろうか?
紙切れ一枚を頼りに…一体どんな関係だったのだろう。
きっと突然の訪問だったのではないだろうか。
女性に追い返されたりしないのだろうか。
なんだか気になって気になって、
醤油を買って帰る道をそのマンションの近くを通る方に曲がり
どきどきしながらそっと近づいた。
そしたら、
その人は立っていた。
そのマンションの前にうつむいて。
途方に暮れたみたいに立っていた。
遠くでその姿を見ながら、どうしよう、って思ってしまった。
だけど、声をかけたところでどうすることもできない。
会えたのか?会えなかったのか?
とても気になったが声はもうかけないことにした。
黙って通り過ぎることにした。
マンションの前に立っていたその姿がとても切なかったけれど
事情をまったく知らない者としては、
それが、いいことなのか、悪いことなのか、分からない。
女性とその外国人の関係もよく分からない。
ごめんなさい。
はるばる日本に会いに来たその人の想いがとても気になるけれど、
それ以上は関わることができません。
ドライなこの世の中に
私も少し染まってしまったのかもしれませんし、
臆病なのかもしれません。
だけど、私はあることをきっかけに、
不用意でその場限りの親切はやらないことにしようと
思ったことがあったから…
なんとなく
偽善者になってしまうような気がしたから…
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いや、偽善は悪いことじゃないと思うわけで。
嘘でも親切(ぶったとしても)な言葉をかけることができるって、えらいなあ、と思うわけで。
だけど、、
口先だけでその場しのぎのいかにもうすっぺら~い、
んなことココロにも思ってないやろぉ、
いかにも無理してる、、的な言葉は
私には無用です。